バイバイ、ベリヒル 眠り姫を起こしに来た御曹司と駆け落ちしちゃいました
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会場の中に入った国民的大女優のまわりにはあっという間に人だかりができていく。
奥様は笑みを崩すこともなく一人一人丁寧に応対している。
「会場にお越しの皆様、ただいまイタリア大使がお見えになりました」
司会者が告げると、拍手が沸き起こり、みなが一斉に入口の方を向く。
「ようこそお越しくださいました」
奥様が深々と頭を下げながら出迎えると、大使も日本式にお辞儀をして挨拶を交わす。
「続きまして、文部科学大臣林田様と文化庁長官坂口様もお越しくださいました」
姿を見せたのは二人のおじいさんだった。
警護のSPが目を光らせていて、急に物々しい雰囲気になった。
大使と大臣たちが握手を交わす。
奥様が私を呼んだ。
「星崎さん……だったかしら、お客様にお飲物を差し上げて」
「はい、ただいま」
奥様がそばにあるシャンパン型のボトルを指さした。
「文化庁の坂口長官はお酒を召し上がらないから、こちらのノンアルコールのものを差し上げてね」
「はい、分かりました」
本物のお酒と見間違えるほど豪華なボトルに入っているのはノンアルコールのスパークリングジュースだった。
それを細いグラスにこぼさないように注いでいると、肩越しに声をかけられた。
「いい香りだな」
振り向くとすぐそばに社長の微笑みがあって私は思わずボトルを落としそうになってしまった。
「ノンアルコールですが、社長もこちらをお召し上がりになりますか?」
パーティーとはいえ業務だからお酒を控えるのかと思ったのだ。
「違うよ」と、耳元でささやく。「君だよ」
私?
「め、召し上がるんですか?」
こんな衆人環視の中でセクハラですか!?
社長が笑いをこらえている。
「香りのことだよ。香水がいい香りだと言っているんだ」
ああ、もう、何言ってるんだろう、私。
爆発してしまいたい。