バイバイ、ベリヒル 眠り姫を起こしに来た御曹司と駆け落ちしちゃいました
 そういえば先輩たちにも迷惑をかけちゃったんだから、お詫びのお菓子でも持って行った方がいいよね。

 ベリヒルモールで焼き菓子でも探してみようかな。

 週明け月曜日が憂鬱だ。

 ハピネスブライトに勤めてからは仕事が楽しくて、こんな気分になったことなかったんだけどな。

 それにしても就活学生に見られるなんて……。

 普段カジュアルウェアだから、スーツ姿が似合わないのかもね。

 あ、どうしよう、着替えは会社のロッカーにあるんだった。

 取りに行った方がいいかな。

 このままアパートに帰って、月曜日にスーツで出勤したっていいけど、着替えを持って行かなくちゃならないし。

 いろいろやらなきゃならないことが思い浮かんできて、混乱してしまう。

 何からしたらいいか迷っていると、鞄の中でスマホが震え出した。

 社用のスマホだ。

 社長から!?

 通知画面に出ている名前を見て、私はあわてて耳に当てた。

「はい、星崎です」

「退院したそうで何よりだ」

「ありがとうございます。ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした」

 電話の向こうで一瞬声が止まったようだった。

「迷惑とはなんだ?」

「会社のパーティーを台無しにしてしまってすみませんでした」

「べつにそんなことはないから大丈夫だ」

「そうなんですか?」

「君が倒れたおかげで記者達も冷静になって騒ぎは収まったからな」

 私が倒れたから騒ぎが収まった?

 言い方の問題かも知れないけど、なんか引っかかる感じだった。

「マスコミも自分たちの起こした騒ぎで怪我人が出たことを報道しようとはしないからな」

 ますますモヤモヤする言い方だ。

 安堵したような息づかいが聞こえた。

「ケガがなくて良かったじゃないか。安心したよ」

 その言葉を聞くと、こっちも安心する。

 あえて言葉の裏を読まなくたっていいんだ。

「倒れたときに私を抱きかかえてくださったそうで、ありがとうございました」

「騒ぎの様子を見にいって、たまたま後ろにいただけだ」

 せっかくお礼を言っているのに、なんだかうまくかみ合わない。

「少しは心配してくださったのかと思ってたんですけど」

 私もついトゲのある言い方になってしまう。

「なぜ心配しなければならない」

 それはそうだけど……。

「大事な社員だから」

 ……かな?

「ああ、まあ、そうだな」と少しだけ社長の声のトーンが落ちる。「心配したさ」

 今度は一転して深刻な雰囲気だった。

 電話だから相手の表情が読みとりにくいのかな。

 どう話したらいいのか分からない。

 お互いに無言になってしまった。

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