バイバイ、ベリヒル 眠り姫を起こしに来た御曹司と駆け落ちしちゃいました
 迷っていると、そこへ別の係の人がやってきた。

「お待たせいたしました」

 カプチーノののったトレイを持っている。

 あれ、さっきの社長のオーダー、なんでもう通ってるの?

 不思議に思ってよく見ると、係員の制服にインカムのマイクが付いていて、しゃべった内容がそのまま伝わるようになっているようだった。

 いたれりつくせり、すべてが思うままになるようにできてるんだな。

 社長が輪を描くように台車を指さす。

「迷うなら一切れずつ全部もらったらいいじゃないか」

 あ、それ、お金持ちのやるやつだ。

 太りそうだなあ、と心の中で誰かの声がするような気がしなくもなくはないけど、誘惑には勝てない。

 こんなチャンス二度とないもんね。

 食べるのは今、ダイエットは明日。

 頑張ってね、未来の私。

「じゃあ、一つずつお願いします」

「かしこまりました」

 カプチーノを運んでくれた人がホールケーキにナイフを入れて、カットしたものをお皿に移してくれる。

 それをくれるのかと思って手を出そうとしたら、そこからがケーキバイキングと似ているようで全然違っていた。

 それぞれのケーキに合わせたソースが用意されていて、もう一人の係員さんが絵を描くようにお皿にデコレーションしてくれるのだ。

 花から花へと舞う蝶や、愛のさえずりを交わす小鳥たち、そして、シンプルなハートに、"for you"のメッセージ。

 カットする人とデコレーションの人の連携が見事で、華やいだお皿が魔法で作り出されたみたいに、あっという間に並べられる。

「どうぞお召し上がりください」と、係の二人が頭を下げて去っていく。

「ありがとうございます。いただきます」

 とは言ったものの、選ぶだけでも迷ってしまったのに、あまりの美しさにどれから手をつけていいのか分からない。

「素敵すぎてなんだか食べちゃうのがもったいないですね」

「食べない方がもったいないだろう」

 それはそうですけどね。

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