バイバイ、ベリヒル 眠り姫を起こしに来た御曹司と駆け落ちしちゃいました
 なんと返事をしたら良いのか分からなくて私はつい、尋ねてしまった。

「お母様からの電話だったんですか?」

 虚を突かれたような表情で社長がうなずく。

「あ、ああ、京都で撮影中なんだ。休憩時間だったらしい」

「ご活躍なさってるんですね」

 違う。

 私が聞きたいのはそんなことではなかった。

「あの、社長……」

 私は言うべきかどうか迷っていた。

「どうした?」

 プライベートなことだったし、わざわざ尋ねる必要もないことなのは分かっていた。

 急に後悔の気持ちがこみ上げてくる。

 でも、言いかけてしまった以上、もう後には戻れなかった。

「お母様は亡くなられたんだそうですね」

 思い切って尋ねると、社長は意外と平然とした表情のままだった。

「ああ、佐山先生から聞いたのか」

「はい」

「中学に上がったばかりの時だったな。正直、とても悲しくてつらかったよ。なんでこんなことになるんだって、どこに怒りをぶつけたらいいのか分からなかった」

 社長は窓辺に視線を移しながら遠くを眺めていた。

「おまけに、二年もしないうちに新しい母親ができたわけだからね。最初は素直に受け入れることなんてできなかったよ。まだ俺も子供だったからね」

「そうだったんですか」

 自分で尋ねておきながら、私は当たり障りのない返事しかできなかった。

「佐和子母さんは確かに実の母ではないけれど、いろいろ世話になったし、今はまちがいなく親子だと思っているよ」と、自分に言い聞かせるようにつぶやくと、社長が私に微笑みを向けた。「まあ、だから、言いつけ通り、これから人と会うんだ」

 あ、そうだった。

「貴重なお時間をすみませんでした」

「いや、いいんだ。こちらこそ、もっと話したかったよ」

 急に顔が熱くなる。

『……もっと話したかった……』

 社長の言葉のリフレインに押されて、私は返事ができなかった。

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