交錯白黒
コンコン
そんなことを考えていると控えめで、低い位置からノックが聞こえた。
ドアの向こうの人物が分かり、しばらく使ってなかった表情筋が動く。
使ってない間に錆がついたのか、ぎしぎしと軋んだ音がした。
「天藍ちゃん!」
ドアを開けるなり、私のお腹に顔を埋めてき、下半身が温かみに覆われ、少しくすぐったかった。
「千稲ちゃん、昨日楽しかった?」
ぷはっ、と大袈裟に私のお腹から顔を離した彼女は、白い歯を輝かせ、にっ、と笑った。
唇の下のほくろがチャーミングである。
白く丸い頬が濁りのない聴色に染まり、元気に茶髪のツインテールが跳ねる。
彼女の一つ一つの動きが愛らしく、俗に言う、母性本能が染み出してきた。
「うん!はるくんがね、誕生日プレゼントくれたの!」
彼女、小亜束 千稲ちゃんは小学生3年生。
彼女の言う、"はるくん"こと如月 遥斗は、千稲ちゃんのボーイフレンド。
私の弟でもあるが、年齢=彼氏いない歴の私とは大違いだ。
もっとも、彼氏を作りたいと思ったことは無いが。
「何もらったの?」
彼女の誕生日は昨日、即ち3月20日。
病院生活では友達もできにくい筈なのに、彼女の口からはクラスメートの話が止まない。
彼女の、太陽をも打ち負かすような底抜けの明るさが人々を惹き付けるのだと思っている。
彼女は、今は退院しているが、私と同じ病気だ。
それなのにこの違いは何なのか。
「クッキー!ハート型でね、すっごい可愛くて、おいしかったの!」
「そっか、良かったね」
そういえば、遥斗が作り方を聞いてきた。
だが、私も作ったことが無く、分からなかったため、図書館の本をかき集めて二人でなんとか焼きあげたのだ。
「天藍ちゃんにもらったヘアゴムだって、ちゃんと付けてるよ!」
ほらっ、と得意げに髪の結び目を指差した。
そこには、見るに耐えないガタガタの編み目で構成されているミサンガ状のヘアゴムが巻き付いている。
「……ありがとう」