密かに出産したら、俺様社長がとろ甘パパになりました~ママも子どもも離さない~
そんな兄の助言に、私は目から鱗が落ちる思いだった。
今まで私は、玲士の店に勤めるか、自分の店を開くかの二択しかないと思っていた。
でも、そんなふうに回り道したっていいんだよね。後でやっぱり自分のお店が開きたいと思ったとしても、玲士の店で経験を積むことは、絶対に自分の糧になる。
「ありがとう、お兄ちゃん。なんか迷いが晴れた感じ」
そう言って微笑みかけると、兄も相好を崩す。
「ならよかった。あ、こっちの店のことは心配するなよ。もともとは俺ひとりでやってたんだし、雛のコーヒーの味をちゃんと理解してるの、うちの常連では間山くらいだしな」
「あはは……だよね」
間山は私のコーヒーが飲めなくなったら、どうするんだろう。また別の店にデリバリーを頼むだけかな。気難しい作家先生だから〝あのコーヒーがないと書けない〟とか言い出しそうな気もするけど……。
「ところで雛、結婚の方はどうするんだ?」
ぼんやり間山のことを考えていたら、兄が質問をしてきて我に返った。
「ん……それはもう少し考えるつもり」
「そっか」
まだ決心がつかない私の気持ちを尊重するように、兄が大きな手で私の頭をぽんぽんと叩く。いつも心配をかけてばかリの私だから、兄にとっては今でも世話の焼ける小さな妹なのだろう。
でも、その過保護さに甘えてばかりじゃダメだ。玲士とのことは、自分でちゃんと決めないと。
私は缶に残ったビールを一気に呷り、決意を新たにした。