麗しの彼は、妻に恋をする
「ええ。なんでも来月の陶苑のパーティの招待の返信郵便と間違って何かを専務宛てに送ったらしいんですが、封筒を見ればわかるとかなんとか。でも差出人の名前も書いていないとおっしゃるんですよ」

『ふーん。それで見せたの?』

「もちろん見せていません。個人情報なのに失礼な話です」

『当然だ。見せる必要は全くないし、夏目も冬木も今は手が離せないと伝えて帰って頂いて。戻れたとしても夕方五時過ぎになる。その時間に出直すか、こっちから雫家に行くか、それはお好きなようにということで』

「わかりました」

女性社員は深呼吸をしてから、応接室の扉を開けた。

「申し訳ございません。おふたりとも手が離せず、戻りは夕方になるということでした」

「はぁー」

大仰な溜め息をついて、彼女は左右に首を振る。

「で? もう一度聞くけど、今日届いた郵便物はもう和葵さんは見たの?」

「さぁ、それは……。多分ご覧になってはいないと思いますが」

「じゃあ、見せなさいよ。封筒」

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