麗しの彼は、妻に恋をする
「ですからそれは無理です。差出人は封筒に書いていらっしゃらないのね? せめて、内容だけでも教えて頂ければ」

鬼の形相になった雫ジルは、「それじゃ意味がないのよ! 使えない人ねっ」と吐き捨てて立ち上がった。

「とにかく、薄い水色の、差出人のない封筒よ。パーティの返信用の封筒によく似ているの。その封書が届いたら、開けずに届けるように伝えて頂戴。わかったわね」

「はい。伝えておきます」

扉を叩きつけるようにして、雫ジルは足早に応接室を出て行った。

冬木陶苑では本店の三階を利用して季節ごとにパーティを開催する。
店を閉めたあとのナイトパーティで、注目の作家やお得意様を招いての小規模なもの。開催を公にすることはなく、郵送された封書で招待する。

その面倒な手間をかけて、参加の返信があった方にのみ特別なお土産物を用意するのだ。

考えてみれば、彼女はいつも真っ先に送ってくるが、今回はまだ返信が届いていなかった。

彼女が探しているという封書を、間違って送ってしまったということなのだろう。

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