麗しの彼は、妻に恋をする
彼女は陶苑の女主人になることを狙っていた。

子供の頃からずっと、和葵と通った学校が同じであることが自慢らしく、彼に対する態度もあからさまなので、そのことは陶苑の誰もが知っている。

――専務には全く相手にされていないくせに。なんなのよ。
感じ悪いったらありゃしない。

社員に対する態度が横柄なこともあり、陶苑の誰もが彼女を嫌っている。

その点、専務の奥さまは違う。

腰が低くてニコニコしていて、それに何より――。
そう思いながら、彼女は陶苑の売り場に戻り、並ぶ商品のひとつである小さな花器の前に立った。

この棚だけは、彼女が選んだ物を置いていい事になっている。美大を卒業し入社十五年目にしてようやく任された仕事だ。

並べる器を選ぶ際、誰の作品かわからないように、作家の名前を書いた紙を器の中に隠した状態で、在庫の中から置く物を選ぶことにしている。

品物が売れてスペースが空く度にそうしているのだが、今ここに置いてあるこの花器は、ひと目で気に入って、次に置こうと決めていたものだ。

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