麗しの彼は、妻に恋をする
青味がかった深い緑が美しい花器。

それは、専務夫人の作品だ。

花を挿せばどんな花も引き立てるだろう。
このままただ飾ってみても、洋室、和室、玄関。どんな場所でも合うに違いない。

温もりと優しさが滲み出た素敵な器。

桜井柚希と書かれた小さなプレートの位置を少し直して、女性社員は満足そうに微笑んだ。

――それにしても手紙ってなんだろう?

今日の午前中届いた郵便物の中に、専務宛ての差出人のない水色の封筒があった。

恐らく雫ジルが探していた封書だろう。

ジルが言っていたとおり、陶苑宛のパーティの参加返信用の封書とよく似ていたので、覚えている。

一体何が入っていたのだろうと考えて、顔をしかめた。

――まぁどうせ、ろくなものじゃないわね。



遡ること、一時間と少し前。

彼女が夏目に届けた専務宛ての郵便物は、彼女が部屋を出てから和葵の目の前で夏目が開けた。

「ん? 差出人が書いてないね」

「どうせろくなものじゃないでしょう」

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