麗しの彼は、妻に恋をする
後ろには何も見えないが、前を行く芳生がウインカーを出して軽トラックを止める。

なんだろうと思って、柚希も止まった時だった。

クラクションは鳴りやみ、代わりに響く声。

「――ゆずきー」

「え?」

振り返ると、一本北側の農道を走るスーツ姿の男性が見えて、大きく手を振っている。

「まさか、和葵さん?」

「ゆずきー」
和葵は身振り手振りで、その先の道を指差す。

「軽トラ見ててあげるから」
そう言ったのは、ドアガラスを開けて顔を出した芳生だった。

「ありがとう! 芳生さん」

――和葵さん、どうして?

どうして来たの?
走って走って、角を曲がって。

「和葵さんっ!」

「ゆずきー!」

向こう側から走ってきた和葵に、柚希は飛びついた。

「よ、よかった。追い、ついた」
「和葵さん……」

「し、しぬ」

「あっ。大丈夫ですか」

「うん。どーしたの。ジルに、なに、言われたの?」

ぜぇぜぇと息を整えながら、和葵は、涙目の柚希の髪をなでる。

「贋作の記事が出るって」

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