麗しの彼は、妻に恋をする
「贋作?」

「はい。フランス人みたいな名前の画家の」

「フランス人? うち、日本人画家しか、扱ってないし」

「え?」

「そーゆー記事って、出る前に、うちに、連絡、あるはずだし」

「じゃあ」

「それ、百パー、嘘ね」

――そうだったのか。

「そうやって脅されて、離婚届書いたんだね?」

柚希は頷いた。
「ごめんなさい……」

「柚希、ちゃんとしよう。都内に陶芸もできる家を買う。
 ずっと近くにいて、永遠に僕の妻でいて」

「――和葵さん」

「じゃないと、体にGPS埋め込んじゃうよ?」

両手で柚希の頬を包み込みながら、和葵はギロリと睨む。

「ええー?」

顔をしかめると、彼は笑う。

「わかった?」

「はい。わかりました」

「素直でよろしい」



農道でキスをするふたりと見て、芳生と夏目はクルリと背を向けた。

「高崎先生、この度はお世話になりました」

「いえ。どういたしまして。あの…。
 俺は、陶苑と縁を切られるんでしょうか」

憂鬱そうに、芳生は肩を落とす。
和葵から、やんわりとだが、柚希には二度と近づくなと釘を刺されていた。登り窯に火を入れたあの時に。

わかってはいたが、泣いている柚希を放っておけなかった。

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