北向き納戸 間借り猫の亡霊 Ⅱ 『溺愛プロポーズ』
 せめて睨んでいるように見えないように、無心を心がける。
 雑踏のせいか、シャッター音も聞こえないうちに「はいOK」の声がかかった。
「次、外行こう。中庭にいい雰囲気の東屋があるみたいなんだ」
「え、うーん」
 答えを留保して凛乃が累を見る。
「それだけ撮ったら行く」
 ブリーフケースが人質みたいだと思いながら、4人でホテルの中を抜けて庭に出た。
 ちょうど鐘が鳴って、ホテルとは別棟のチャペルの扉が開きはじめる。新郎新婦が出てくるのだろう。列席者の拍手と歓声が沸く。
 それに見向きもせず、カメラマンとポーターが、扇形に拡がる階段をせかせかと下りてゆく。
 起伏に富んだ庭はエリアごとにテーマがあるらしく、すり鉢状の底は日本式庭園になっていた。
 横を見ると、凛乃は着物の裾を少し持ち上げ、空いた手を宙に浮かせてバランスをとりながら、片足を出そうとしている。
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