北向き納戸 間借り猫の亡霊 Ⅱ 『溺愛プロポーズ』
「おれは小野里の家に婿に入ったくせに、累を置いてフランスに来て、もう20年です。正直、親として充分なことはできませんでした。でもね、これからの人生、累といっしょにいるのはおれじゃない。どんなひとが累といっしょにいてくれるのかは、気になるんです」
 凛乃が深くうなずく。
 にこやかにうなずきを返した言造が、口唇をとがらせてこっちを見た。
「質問禁止って言うから、こっちが一方的にくっちゃべってるようになってるだけ。維盛さんがどういうひとなのか、おまえが教えてくれたっていいんだぞ」
 累が横を見やると、凛乃は面接を受ける学生みたいに精一杯背筋を伸ばした。
 口元に浮かぶ笑みに誘われて、凛乃を言葉に変えてみる。
「同い年。でもいまは1コ下。1月生まれだから」
「こまかい……」
 凛乃がつぶやく。
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