北向き納戸 間借り猫の亡霊 Ⅱ 『溺愛プロポーズ』
「そっちでお義母さんと暮らしてるときはともかく、心配してたんですよ。でもこの夏くらいから顔色よくなって、いい感じのハリも出て。ビデオ通話してても表情がスッキリしてるし、気もそぞろっていうか、別のことが気になる感じでソワソワしてたし。な?」
 急に振られた累はデスクに頬杖をついて、つるにこの小さな身体の陰に隠れた。
 そんな累を見て凛乃は笑いをこらえているし、たぶん言造もおなじ表情を見せているだろう。
 自分だけ分が悪い。
 つるにこの毛皮に鼻先をうずめて、累は深呼吸した。
「ほらこいつ、愛想ないでしょ。根はやさしい子なのに、そんな態度じゃ伝わらないし敬遠されるって言うんですけど、まー忠告なんか聞きゃしない。なんかね、気難しい猫みたい。扱いにくくて困らせちゃってるんじゃないかと」
 凛乃が手を振って否定する。
「あ、そういうところも好きなので」
 尻切れトンボながら、たしかにそう言い切った。
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