北向き納戸 間借り猫の亡霊 Ⅱ 『溺愛プロポーズ』
 互いに譲らない凛乃と母親をよそに、父親は累に向き直って静かに尋ねた。
「仕事はなにを?」
「翻訳業をしています」
 笑みこそ浮かべる余裕はないものの、累が歯切れよく答える。
「どこか会社に勤めて?」
「いえ、フリーランスです」
「不安定ってことね」
 割り込んでくる母親に、凛乃は想定内の反撃をくりだす。
「時給にしたらオカンの3倍稼ぐからね累さんは。キャリアはもう10年近く」
 多少四捨五入しているものの、嘘ではない。
 思った通り、日頃から自分の時給に愚痴っている母親は、その数字に一瞬怯んだ。
「でもそっちは土地が高くて、家建てるのもこっちの何倍もかかるんでしょ。建てられるの?」
「持ち家あるもん」
< 184 / 317 >

この作品をシェア

pagetop