北向き納戸 間借り猫の亡霊 Ⅱ 『溺愛プロポーズ』
「建物の中の写真を撮りたかったんやって。ほらここ、見た目が武家屋敷っぽいから」
「中見て、ふつうでガッカリしてたけどね」
 カメラを手にしたバックパッカーと累を従えて、女将が民宿のなかから出てくる。
「あら助かったわ時江さん、お婿さんのおかげ」
「いえいえ、お役に立てたんなら幸い」
 婿呼びを華麗にスルーし自分の手柄ぶる母親の陰で、凛乃はイーっと歯を噛みしめた。
「すみません」
 累が野次馬集団に声をかける。
「そこでなにをやるんだって聞いてます」
 指さした先には、運動会とかで見るようなテントがある。門近くに建てられたそれの下には、いま横長のテーブルしかないけれど、テントにかかる紅白の垂れ幕と大きな提灯は、あきらかに何事かが起こるのを予感させる。
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