北向き納戸 間借り猫の亡霊 Ⅱ 『溺愛プロポーズ』
「あんた説明してよ。お振舞い、わかるやろ」
「頼むわ凛ちゃん、おばちゃん背の高いひととしゃべって首が疲れたわ」
 体よく押し出されて、凛乃はしぶしぶ累の横に並ぶ。累の目元が、ほっとしたようにゆるむ。
「この近くの神社に初詣に来た人に、そこでお神酒か甘酒を売るの。このへんのひとはたいがい、日付が変わった瞬間から初詣にくりだして、お参りしてから寝るから、真夜中から2時くらいまで出すよ」
 初詣やらお神酒やら、日本特有のものを説明するのに苦心する累を、たびたび日本語で援護しながら、凛乃はその横顔を見つめる。
 仕事中の姿は何度も見ているけど、ほとんどパソコンに向かっているだけだった。聞き取れないほど流暢な異国の言葉が累の口から出ていくのは、思っていたよりもときめいた。
「お振舞いは旅館とか居酒屋とかいろんなとこでやってるけど、どこでも1杯45円の格安でね、甘酒は出してるとこで味が違うから、初詣帰りじゃなくてもわざわざ買いに来る人とか、コンプリートする人もいる」
 調子に乗って情報を追加すると、バックパッカーの目が輝く。
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