北向き納戸 間借り猫の亡霊 Ⅱ 『溺愛プロポーズ』
 そのビルのガラス張りのおもてから中をひょいと見やったとたん、凛乃は心中で悲鳴を上げながらバッグの中を漁った。
 壁に背をあずけて一幅の絵画となっている累を、ピクセルに収めなければならない!
 ビル内が暖かいのかジャケットのボタンを全開にし、ネクタイの首元をゆるめて、しどけなく着崩している。物憂げに腕組みしつつ、スマートフォンに目を落とす様が、絵になりすぎだ。
 凛乃はスマートフォンのカメラを連写モードにし、自動ドアを通るサラリーマンの背後に隠れてそっと中に入った。
 正面から近づくとすぐにバレるから、いったんはエレベーターホールに向かうサラリーマンについていき、大きな幸福の木の陰で足を止める。
 接写したいところだけど、この距離で限界だ。
 凛乃はワンピースの裾が汚れるのもかまわず片膝をついて、肘を固定した。
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