北向き納戸 間借り猫の亡霊 Ⅱ 『溺愛プロポーズ』
「そうですか、残念です~」
 手入れが行き届いた髪をかき上げながら、女性は累をひたと見つめた。
「小野里さん、大事な資料をお渡しするの忘れてました。今度ご自宅にお持ちしますね」
「送ってください」
「でも資料を見ながら打ち合わせもしたいし」
「ではいまもらっていきます」
 累がブリーフケースをロビーチェアに放り投げた。
「ごめん、悪いけどちょっと待ってて」
 凛乃の手を取るときは、いつものやさしい声だ。
「あっ、うん、だいじょぶ。気にしないで」
 累はどこか安堵したように微笑んだ。
「すぐ戻る」
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