北向き納戸 間借り猫の亡霊 Ⅱ 『溺愛プロポーズ』
「こういうの?」
 目の前に突き出されたワンピースに焦点を戻して、凛乃はとっさに「んー」と返事を引き延ばした。
「ちょっと印象的過ぎるというか、もっと使いまわしが効くようなものがいいかな」
 凛乃がどう動いてもさりげなくついてくる手の触れかたには、迷いがない。
 気持ちが伝わる気がして、単純にうれしい。
 ただ、それが感じたとおりに外国生活に由来するものなら、身に着いたのは留学していた時期ということだろう。
 いくら累がそう見えないからといって、フランスで恋愛してなかったとは言えないし、不自然でも悪いことでもない。
 でも凛乃の奥に、少し靄がかかる。
「こっちは? 似合いそう」
「そうですか? んー、でもこの色味に合う靴がないなあ」
「じゃあ靴も買っていこう」
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