北向き納戸 間借り猫の亡霊 Ⅱ 『溺愛プロポーズ』
 話をしたいわけじゃなかったけど、言造と佐佑をふたりで残してゆくことの不安も頭をもたげる。累はしぶしぶうなずいた。
「じゃあ、明日ね」
 玄関で照れくさそうに小さく手を振る凛乃を、衝動的に引き留める。
 素早くうしろをふりかえってふたりの盛り上がりを確認してから、累はかすめるように口唇にキスをした。
「明日」
 約束のように言うと、凛乃はこくりとうなずいて家を出て行った。
「そういえば、今回は義理の弟くんも来るって言ってなかった?」
 リビングに戻った累に向かって、佐佑がグラスを振って見せる。ふたりは本当にミネラルウォーターをグラスに注ぎあっていた。
「来てるけど、ホテルにいる」
「そうなんだ」
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