北向き納戸 間借り猫の亡霊 Ⅱ 『溺愛プロポーズ』
凛乃を引き渡してもらい、手を取る。
いつもとちがう濃いメイクに彩られてはいるけれど、いつもとおなじあたたかい眼差しが注がれた。冷汗が、すっと引いていく。
「新郎様のお父さまより、おふたりがこれから署名される婚姻届けが渡されます」
司会者のアナウンスに沿って、言造から婚姻届けのホルダーを受け取る。
息も絶え絶えに泣いている言造は、スタッフの介助無しには開いているホルダーを閉じて渡すという動作もできなくなっていた。
ふたりそろって列席者のほうを向くと、すでに佐佑はじめ何人かもらい泣きしている姿が目に入る。
おかげで累は、逆に少し冷静になった。
「パパのこと、頼むね」
初めてそう書かれていた母からの手紙。最後の願い。
凛乃が言っていた“よろこんでもらえる式を”を、ようやく自分も少し実践できた気がした。
会場のだれよりも激しい嗚咽をもらす父親が、促されて離れてゆく。
ふたりで始める家族の一歩を、累はゆっくり踏み出した。
いつもとちがう濃いメイクに彩られてはいるけれど、いつもとおなじあたたかい眼差しが注がれた。冷汗が、すっと引いていく。
「新郎様のお父さまより、おふたりがこれから署名される婚姻届けが渡されます」
司会者のアナウンスに沿って、言造から婚姻届けのホルダーを受け取る。
息も絶え絶えに泣いている言造は、スタッフの介助無しには開いているホルダーを閉じて渡すという動作もできなくなっていた。
ふたりそろって列席者のほうを向くと、すでに佐佑はじめ何人かもらい泣きしている姿が目に入る。
おかげで累は、逆に少し冷静になった。
「パパのこと、頼むね」
初めてそう書かれていた母からの手紙。最後の願い。
凛乃が言っていた“よろこんでもらえる式を”を、ようやく自分も少し実践できた気がした。
会場のだれよりも激しい嗚咽をもらす父親が、促されて離れてゆく。
ふたりで始める家族の一歩を、累はゆっくり踏み出した。