北向き納戸 間借り猫の亡霊 Ⅱ 『溺愛プロポーズ』
 風呂掃除を終えてリビングに戻ると、凛乃がソファに寄りかかって電話をしていた。少し訛りのある話し方から、相手が実家のだれかだとわかる。
 累は音を立てないように縁側に出て、レースのカーテンをきっちり閉めた。今日は日差しが強い。まだ5月なのに、夏のように気温が上がる予報だ。
 終始楽しそうに笑って電話を終えた凛乃が、こちらを向く。
「お風呂掃除ありがと」
「ん。熱は?」
「微熱とも言えないくらい。コーヒーゼリー食べたら目が覚めたよ」
「ならいいけど」
 休日とはいえ、凛乃が朝食をパスしてまでまだ寝たがるなんて、めずらしいことだった。
 でもいま見る限り、顔色は悪くないし、表情は明るい。
 累は杞憂を捨ててキッチンに入った。
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