北向き納戸 間借り猫の亡霊 Ⅱ 『溺愛プロポーズ』
 あおむけに寝返って累が腕を拡げると、凛乃は身体をぐぅんと伸ばすようにして、そこへすべりこんできた。
「いまの動き、猫みたい」
「そのつもりだった」
 累の腕にあごを乗せて、うつぶせになった凛乃は、「にゃあ」と鳴き真似した。
 その髪を、猫たちにするように撫でる。触り心地はちがうけど、癒しの効果は同じく抜群だった。
「最初に玄関に入ってきたときから、つるこみたいだなと思ってた、動きが」
「雷が好きだしね」
「それもそうだけど、ちょっとした仕草がね。だから、猫ならいっしょに暮らしたいって思った」
 言葉にすると、忘れていた空虚な思い出がチクリと胸を刺す。
「ほんとうは限界だったんだ、あのころ。この家も空っぽすぎて」
 累は凛乃の身体に両腕をまわして、やわらかさとあたたかさと芯の確かさを実感する。
「でも凛乃が来たら、いっしょに暮らす家族が、どんどん増えた。凛乃は増幅装置みたいだ」
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