北向き納戸 間借り猫の亡霊 Ⅱ 『溺愛プロポーズ』
「たしかに」
 喉元に凛乃の笑う息がかかる。
「いつのまにか、増えた側から増やす側になってたなあ。間借りするだけのつもりだったのにね」
 かつては物置とすら言えない死んだ空間だったここは、半年ほど凛乃の避難所だった。
 そんな場所が要らなくなってからは、ドアをはずして壁にし、逆に壁だった側を抜いて隣室とカーテンで仕切る仕様にして、恋人同士のアルコーヴ風寝室になった。
 妻となった凛乃のおなかが大きくなって階段の上り下りがキツくなると、寝室は階下の和室に移り、ここは早いうちから買い集めたベビーグッズ置き場となって、本来の役目を取り戻した。
 いまの在りかたに代わったのは、凛乃の復職と彪吾の成長に伴って、寝室と生活の場を切り分けることにしたときだ。
 薄いレースカーテン越しには、凛乃と彪吾の寝姿。それを見ながら累が独り寝するには、ここはちょっと広すぎる。
 累は、しばらくぶりに寄りそうふたりの素足を、撚糸のように絡みあわせた。
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