別れたはずの御曹司は、ママとベビーを一途に愛して離さない
「今日は無理を言ってこの場に来ていただいてありがとうございます」

コース料理の最後、デザートを食べ始めた矢先、渚さんがそう言って柔らかく微笑む。

「こちらこそこんなに素敵な場所に連れて来ていただけて嬉しいです。お料理とっても美味しかったです。このラズベリーのシャーベットとクレームブリュレもとっても美味しい」

「そうですか。それならばよかったです」

次の瞬間、彼はゆっくりと席を立ちあがり膝元のナプキンを椅子の背にかけ、私の方へと足を進めてくる。

「渚さん?」

いつの間にか目の前に影が落ちた。反射的に見上げれば渚さんがふわりと笑う顔がある。綺麗な顔が間近に迫り、一気に心音が加速した。

「口元にクリームがついてますよ?」

渚さんがフッと笑いながら、私の唇を優しくなぞった。

「す、すみません。ありがとうございます」

渚さんの行動に私が動揺しないはずがなくて、一気に頬が紅潮していく。

「そんなウブな反応を見せる凛子さんもとてもかわいらしい」

宙で視線が絡み合う。渚さんの妖艶な瞳が戸惑う私の姿を捉えて放さない。
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