別れたはずの御曹司は、ママとベビーを一途に愛して離さない
胸のときめきを感じたのはいつぶりだろうか。頬が紅潮していき、忘れていたはずの感情が胸を渦巻く。少女漫画のようなストレートな愛の告白が私の心を乱す。

渚さんのことを私はあまりよくは知らない。私が知っている彼は優しくて気が利く。そして仕事ができる弁護士だということだけだ。

それでもこんなにも眉目秀麗な男性に迫られて、嫌だという感情を抱く女性は少ないだろう。私だって例外じゃない。むしろ嬉しいという感情さえ抱いてしまっているではないか。

キスだって拒もうと思えばいくらでも拒否できたはず。それを受け入れたということは私の中に少なからず彼への好意があるということ。それを否定はできない。

大人になればなるほど恋愛に慎重になっていく。仕事一筋でときめきさえも忘れていたはずなのに。彼はスッと私の心に入ってきて臆病になっていたはずの心の鍵をこじ開けてきた。

「今この瞬間から凛子さんは僕だけのものです。他の男には指一本触れさせはしない。こう見えて僕、案外嫉妬深いので」

「え?」

「キスを受け入れてくれたってことは僕の気持ちを受け入れてくれたってことでしょう?」

「それはその……」

穏やかで優しい。だけど、強引で情熱的。

紳士的なようで自分は〝嫉妬深い〟と人間味くさいことをさらりとカミングアウトする。

そんなギャップを魅せる彼に私の心は惹かれてしまっている。

私は──

渚さんのことをもっと、知りたい。

心がそう叫んだ瞬間、彼との甘くも切ない恋が始まった。
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