御曹司とのかりそめ婚約事情~一夜を共にしたら、溺愛が加速しました~
ここだ……。

緊張で喉がカラカラに乾いて今にもへばりつきそうだ。ベリーヒルズグランドホテルの五十階に到着すると、フロア内で一番広い部屋の前に立つ。何度も何度も深呼吸してドアベルを鳴らそうとしたとき、いきなり部屋のドアがガチャリと開いた。

「ん? なに? 洋司の知り合い?」

明るくカラーを入れた長い髪の毛に、耳朶にはいくつものピアス。スラッとしてスタイルはいいけれど、化粧の濃いケバケバした若い女性が出てきた。香水の匂いがプンと鼻をつき、思わずえずきそうになって口元を抑えた。

「はい。河田洋司さんはこちらに?」

「さっき煙草吸いに行ったから、喫煙所じゃない? 廊下の突き当りよ。あー洋司に会ったら私は帰るからって言っといて」

部屋の中をチラッと覗くとお酒を飲んだり、数人の男女がバカ騒ぎしている。洋司さんが二股をかけていたあのボインちゃんもいた。

「わかりました。ありがとうございます」

ペコリと頭を下げると、女性はヒラヒラと手を振ってそそくさとその場を後にした。

洋司さんと一年付き合っていたけれど、交友関係についてはあまりよく知らなかった。けれど、とてもじゃないけれどお近づきになれそうもない感じの人たちばかりで、部屋に入らなくて済んだことにホッとした。だから彼が戻ってくる前に自分から喫煙所へ行こうと足早に廊下の突き当りへ向かった。

いた――。
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