御曹司とのかりそめ婚約事情~一夜を共にしたら、溺愛が加速しました~
返してもらえる保証もないのに首を縦に振るなんてできない。それに、洋司さんに無理やり抱かれて、泣きながら蓮さんのことを想い続けるなんて考えるだけでも気がおかしくなりそうだ。

「……嫌です」

「なんだって?」

「嫌だって言ったんです! 蓮さんのことを何も知らないくせに、親のお金で遊んでるような人にボンボンだなんて言われたくない!」

私自身もうやけくそになっていたのかもしれない。殴られたって、彼の地雷を踏んでさらに怒らせたってもうどうでもいい。それくらい、私は怒りを抑えることができなくなっていた。

「ああ、そうか。だったら、これは返せないな。でもなぁ、俺も持ってたってしょうがないし……捨てるか」

「え、捨てる……? や、やめて! あっ!」

大きく腕をあげて振りかぶったかと思うと、洋司さんはなんの躊躇いもなくそのネックレスを塀の向こうへ投げ捨ててしまった。キラキラとした放物線を描き、ネックレスが五十階の高さから落ちていくのを、私は放心したままで見ていることしかできなかった。

なんてことを!? 信じられない!

「ほら、そんなに返して欲しかったら探しに行けよ。見つかる保証はないけど」

ふん、と鼻を鳴らす洋司さんを睨みつけ、急いで踵を返して背を向ける。意地の悪い笑い声と冷ややかな視線が背中に突き刺さるけれど、私はそれを振り切ってエレベーターホールへ走った。
< 108 / 123 >

この作品をシェア

pagetop