御曹司とのかりそめ婚約事情~一夜を共にしたら、溺愛が加速しました~
早く、早く! 早く!!

ビルのグランドフロアのボタンを何度も連打して、箱が下に下がる間、なんとか冷静になろうと何度も深呼吸を繰り返した。息を吸っているのに、全然肺に空気が入って来なくて息苦しい。

もう二度と蓮さんに会えなくても、あのネックレスがあれば思い出すことができる。なのに、それすらもう許されなくなってしまうのか、と思うと涙が出そうだった。

グランドフロアに到着し、ポンという電子音とともに扉が開くと、私は転がり出るようにしてエントランスへ向かって走った。すると。

「高杉様、お待ちしておりました。遅くなるようでしたらせめてご連絡を――」

エントランスを出たところで、いつも私を迎えに来る有栖川の運転手が少々困り顔で歩み寄ってきた。けれど、今の私はネックレスが落ちた位置しか頭になくて、運転手に返事をする余裕もなかった。

確かあの喫煙所から蓮さんのマンションが見えた。このビルとマンションの間のどこかにきっと落ちているはず!

「高杉様! お待ちください!」

私を呼び止める運転手の声を無視して再び走り出す。冷たい空気が頬を撫でるけれど、寒さなんて感じない。それほど私の神経は張りつめていた。

足がもつれて何度も転びそうになりながらにビルの西側へ行くと、マンションとの間に見通しのいい道路があり、ヘッドライトを光らせた車がちらほらと走っていた。

あの高さから投げたとしても道路までは距離がある。だとしたら、ビルに隣接している植え込みか、歩道に落ちている可能性が高い。

探さなきゃ! お願い、どうか見つかって!
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