御曹司とのかりそめ婚約事情~一夜を共にしたら、溺愛が加速しました~
「洋司、さん?」

ベリヒルシティに来た時点で元カレに遭遇しちゃうかも、というフラグは立っていたというのに、蓮さんがいるから大丈夫だなんて過信していた。浮気の現場や修羅場で口論したシーンが脳内にフラッシュバックして、一気に顔から表情が抜け落ちた。しかも、豊満な胸を押しつけるように彼の横でくねくねと腕を絡ませているのは、その浮気現場にいたボインちゃんだった。

スパイラルパーマにベージュ系のカラーを入れ、左耳にピアスをしている。すっきりとした顔立ちで一見チャラそうに見えるけれど、これでも巷では有名なブランドのアパレル店を任された店長なのだ。洋司さんはそんな風貌だから女性にはモテる。それにベリヒル族で経済的にも余裕がある。だから付き合った当初から「どうして私なんかと……」と思っていたけれど、甘い言葉を囁かれるたびに彼にのめり込んでいった。

「春海、この間のこと……言い訳に聞こえるかもしれないけどさ」

「言い訳とかもういいです。だって、私たちもう終わったんだし」

チラッと窺うように蓮さんを横目で見る。私に背を向けたまま、まだ電話中だ。

やだ、こんなところ見られたくない……このまま洋司さんが立ち去るまで振り向かないで、お願い!

「洋司はねぇ、結局私の方を選んでくれたんだよ。田舎もんはチョロイんだってさ」

「おい、お前、適当なこと言うなよ」

ボインちゃんが小馬鹿にしたようにクスクス笑っている。彼女だって二股かけられてたはずなのに、それでも彼と一緒にいられる神経が理解できない。

なにそれ、チョロイって? 私のこと?
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