御曹司とのかりそめ婚約事情~一夜を共にしたら、溺愛が加速しました~
「こちらこそ、お父上にはいつも力添えしてもらって助かっている。よろしく伝えてくれ。行こうか春海」

蓮さんが私の手を握る。それはまるで洋司さんへの牽制のように思えた。それを見た洋司さんが面白くなさそうに唇をへの字に歪める。

「有栖川部長、その彼女とどういうご関係か知りませんが気をつけたほうがいいですよ? 金に目がない女です。俺がベリーヒルズビレッジのマンションに住んでることや、親父がアパレル会社の社長だってことを知って飛びついてきたんですから」

「ちょ! な、なに言って……」

もちろん洋司さんの言っていることはデタラメだ。洋司さんがベリーヒルズビレッジの高級マンションに住んでることは付き合ってからわかったことだし、彼のお父さんが会社の社長だなんて初耳だ。

「洋司さん変なこと言わないで」

「変なこと? お前、有栖川部長のなんなわけ? 俺と別れてもう別の男?」

なによ、自分のことは棚に上げるつもり? 最低!

「私が彼のなんなのかって? 婚約者よ。私たち、結婚するんです。あなたと別れて大正解、だって蓮さんすごく素敵な人なんだもの、どこかの浮気男と違って誠実だし」

あぁ、私……何言ってるんだろ。

勢い任せでこんなこと言って、最低なのは、私だ――。
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