御曹司とのかりそめ婚約事情~一夜を共にしたら、溺愛が加速しました~
「結婚? 冗談だろ……?」

洋司さんが信じられないと言ったふうに何度も私と蓮さんを交互に見た。

「嘘でも冗談でもないさ、俺が彼女に一目惚れしたってとこだ。だから、そんな彼女を侮辱するような男は許せないな」

蓮さんの声は低音だけど通りがよく、ざらつきがない。張り上げているわけでも怒鳴っているわけでもないのにこういうときは妙に迫力があった。微かに眉を顰め、腕を組んで洋司さんを見据えると、私まで身が縮み上がりそうになった。

蓮さん、気を利かせて話しを合わせてくれてるんだ。

「ねぇ、洋司ぃ、もう行こうよぉ~」

いつまでもつまらない話にしびれを切らせたボインちゃんが、洋司さんの腕をぶんぶん振って催促し始めた。洋司さんはフンと鼻を鳴らして、私に冷たい目を向けるとショッピングモールの雑踏へと消えていった。

「大丈夫か?」

蓮さんはなにも言わずなにも聞かず、俯いている私を慰めるようにゆっくり背中を優しくさすってくれた。“洋司さんを見返したい”一瞬、私の中に芽生えた邪な考えに気がつけばとんでもないことを口にしていた。

「蓮さん、ご、ごめんなさ……」

喉の奥がぐっと詰まる。嗚咽で息ができなくなったと思ったら、とめどもなく涙が溢れてきた。

「ここじゃなんだから、とにかく行こうか」
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