御曹司とのかりそめ婚約事情~一夜を共にしたら、溺愛が加速しました~
「その前に俺から質問していいか?」

どこかに座るでもなく、お互いに立って向かい合う。蓮さんと視線がぶつかると罪悪感でいっぱいになった。

「あの男は、君の元カレか?」

「……はい」

隠していても仕方がないし、正直にこくんと小さく頷く。

「一年付き合ってました。けど、ほかにも恋人がいたみたいで、つい最近別れたんですけど……」

「君がさも金に目がくらんで付き合ったみたいな言い方をしていたが――」

「違います! たまたま買い物に行った店の店長だった彼と知り合って、何回か食事に誘われて……でも、付き合う前までは洋司さんがベリヒルの住人だったことやお父さんが会社の社長だったなんて全然知らなかったんです」

きっと蓮さんは私が有栖川家という足元を見てるんじゃないかって疑ってるんだ。

蓮さんに嫌われたくない。洋司さんが言ったことは全てデタラメだ。心の中でそう叫ぶけれど、どれだけ蓮さんの胸に届いているかわからない。

「洋司さんのことは……きゃ!」

誤解しないで欲しい。そう言うとしたら、途中で蓮さんに強く抱きしめられ、言葉が切れた。

「もういい。頼むから、俺の前でほかの男の名前を呼ぶな」

え……?
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