御曹司とのかりそめ婚約事情~一夜を共にしたら、溺愛が加速しました~
前々から思っていたけれど、緒方さんはあまり笑わない。時々私を見る目が冷たいとさえ感じる。考えすぎかもしれないけれど、あまり私を信用していないような気がする。

沈黙の中、ぼーっと窓の外を見ていると不意に緒方さんが小さく咳払いした。

「高杉様、本日お誕生日でいらっしゃいますね? おめでとうございます」

え、あっ! そうだった! 

パーティーの取材原稿の締め切りに追われて、すっかり自分の誕生日が今日だということを忘れていた。

「ありがとうございます。先ほど実家の母と電話をしたんですけど、親でさえ忘れてたみたいです」

あはは、と笑ってみるも、緒方さんは眉ひとつ動かさずに「そうですか」とあまり興味なさげに返事をした。

はぁ、でも遠方じゃ、今日は蓮さんに会えないのかな……。ていうか、なんで緒方さんが私の誕生日知ってるの?

これって、調べられてるってことだよね?

ということは、おそらく私が蓮さんと婚約したことも知っているはずだ。よくよく考えてみたら、有栖川家に嫁ぐ人間の素性を執事が調べるのは当然のことだ。どこまで知っているのかわからないけれど、やっぱり蓮さんにちゃんと自分のこと話そう……。

「あの、ひとつ伺ってもよろしいでしょうか?」

「は、はい!」

いきなり尋ねられて背筋を伸ばすと、バックミラー越しに緒方さんと目が合った。

「先日、蓮様から高杉様と婚約したとお聞きしましたが、本当のことでしょうか?」

「え、ええ、プロポーズをお受けしました」

「……そうですか」

ん?

一瞬、妙な間があった気がする。緒方さんは祝福の言葉を口にするでもなく、それっきりまただんまりに戻ってしまった。

やっぱり緒方さん、結婚のこと知ってたんだ。でもなんだろう、このモヤモヤした感じ……。
実は結婚に反対してる、とか? ううん、考えすぎだよね?

なんだかスッキリしないまま、車はベリーヒルズビルディングに到着した。
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