御曹司とのかりそめ婚約事情~一夜を共にしたら、溺愛が加速しました~
――その日の夜。

「うん、春海ちゃん、お疲れ様。原稿よくできてるじゃない」

「ありがとうございます。よかった」

今朝、緒方さんに『いってらっしゃいませ』と見送られ、会社に到着するなりいきなり絵里さんから『悪いけど、今日中にパーティーの原稿出せる? スケジュールの変更があってね……』と言われててんやわんやな一日だった。

昼過ぎに蓮さんからメールが入っていて、今日は帰りが遅くなるらしい。

誕生日だっていうのに蓮さんにも会えないし、仕事はめちゃくちゃ忙しかったし……はぁ。

「春海ちゃん、大丈夫? 顔色が悪いみたいだけど……」

「え? そんなことないですよ」

昼休み返上でずっとパソコンに向かっていたせいか、仕事が終わるとどっと疲れが身体にのしかかって、糸の切れた操り人形みたいにぐったりと脱力モードになる。

なんだか身体が重だるい……。

風邪でも引いたのかな。

「無理しないでね」

「はい」

絵里さんの気遣いに笑顔を向けるけれど、無意識でまたため息をついてしまった。

時刻は十九時。ちらほらと帰宅する社員が目立ち始める。

そういえば今日は誕生日だったなぁ……。せっかくだし、奮発してベリヒルシティでケーキでも買って帰ろうかな。

また洋司さんに出くわしたらどうしよう、でもパティスリーは洋司さんの店からだいぶ離れてるし平気だよね。よし!

デスクの上を片付けてパソコンの電源を切ると、私はオフィスを後にした。
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