御曹司とのかりそめ婚約事情~一夜を共にしたら、溺愛が加速しました~
「本当は今すぐにでも、と言いたいところだが……明後日だ」

「え?」

「君が有栖川春海になる日だよ」

誰も見ていないし、声だって抑えなくてもいいから。と言われ、流されるように彼に熱く抱かれた。嵐のような情事が過ぎ去ると、ふと蓮さんがそう呟いた。

私が、有栖川春海に……。

苗字が変わるということは、“入籍する”ということだ。

なんだかすごく違和感がある。でも、それはこそばゆい違和感だ。嬉しさに思わず頬が緩んでしまいそうになるけれど、私がまだ蓮さんにふさわしい相手なのかどうか、一抹の不安が残っている。

「蓮さん、私の家族にも会ってくれませんか? 後、今住んでるアパートにも来てください」

「ああ、もちろんだ」

私のすべてを正面から受け止めてもらえる幸せ。だから彼と過ごす時間がものすごく好きになった。

蓮さんの笑顔はいつも私の不安を吹き飛ばしてくれる。ずっとくっついていたくて、私は彼の身体にもぞもぞと身を寄せた。

「なんだ? 甘えてるのか?」

「はい。蓮さんなら甘えてもいいですよね?」

自分で言ってなんだか照れくさくなってしまった。

「可愛いな、もう今夜は帰す気ないから」

「あっ、ん、蓮さん……」

親指と人差し指で私の顎を捉えると、そのまま口づけられる。首筋に熱い彼の吐息を感じ、ガラス越しにやっぱり誰かに見られているんじゃ、という恥ずかしさに悶える。

「あ、あの……」

「さっきも言ったろ? ここには俺たち二人だけだって」

戸惑いを見透かしたような答えが返ってくると、耳朶を甘噛みされて私はぶるりと身を振るわせた。

「……はい」

私と蓮さんの長い夜を、夜空の星々だけが見守るように静かに瞬いていた。
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