御曹司とのかりそめ婚約事情~一夜を共にしたら、溺愛が加速しました~
「すみません、今、引越しの準備で部屋が散らかってて……」

「いえ、どうかお気遣いなさらずに、旦那様から預かっている物をお渡し次第お暇しますので」

旦那様? って、有栖川家の当主? それって、蓮さんのお父様ってことだよね?

嫌な予感が次第に黒いモヤとなって胸に渦巻き始める。せめて明るいことを考えたくて、もしかしたら蓮さんと結婚することを聞きつけてお祝いの何かかな? なんて思いたくなってしまう。
リビングの中央に緒方さんが正座する。向かい合うようにして私も座ると、緒方さんの表情がほんの少し険しいものに変わった。

「蓮様とご結婚すると、そうお決めになられたようですが……単刀直入に申し上げます。あなたは、本当に有栖川家にふさわしい家柄なのでしょうか?」

「え……」

いきなりそんなことを言われて言葉を失う。そして、緒方さんは手に携えていた鞄の中から書類を取り出し、私に見せつけるようにそれらを広げた。

「先日、あなたに関する情報が旦那様のところへ送られてきたのですが、なんせ匿名なので信ぴょう性も薄く、旦那様から高杉様ご本人から確認するよう言われてきました」

手前にある用紙を適当に手に取って見てみると、私の出身や家族構成、生年月日などが事細かく書かれていた。

まるで探偵に依頼した調書みたい。

一体誰がこんなことを……?
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