彼が冷たかった理由。
「日誌書いたから出してくる」

そう立ち上がると、田中君はいいよ、と私の手から日誌をとった。

「日直は俺だし出してくるよ。
ありがとう、優愛」

そう言ってさっさと教室から出ていく。
今日も1人か、なんて思いながらカバンを背負った。


《別れようとは思わないわけ?》


わかれる、か。
完全に私が依存しきる前に、離れた方がいいのかもしれない。

でも好き。好きだ。
だからこそ一歩踏み切れない。


下駄箱に行くと、渉の姿があった。
まだ帰ってなかったんだ、なんて思う。

彼は私たちのクラスの使う下駄箱によしかかって目を瞑っている。
つかれているのだろう、そっとしておこう。

そっと靴を取って、帰ろうとした時だった。


「一緒に帰ろうって言ったのは誰」

「っ、え」

「いつもそう。
外で待ってたら、通り過ぎて帰る」

冷たくて、低い声。
まるでコンクリートみたいなひんやりした声。

「下駄箱にいても、僕のこと、気づかないの」

「わた、る...?」

「さっき田中から聞いたけど、お前、日誌書くの手伝ったらしいね」

じっと見下ろす彼の目は、人を殺せそうなくらい怖いものだった。

「帰ろうって、言ったくせに...!」

私を睨んで、彼は先に出ていってしまう。
追いかけるどころか、拍子抜けして、歩くことすら私は時間がかかった。

なんなの。いっつも、冷たいのに。
< 3 / 20 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop