大正蜜恋政略結婚【元号旦那様シリーズ大正編】
私は自分にそう言い聞かせたものの、玄関を飛び出していくときの彼の背中を思い出して、その場にへなへなと座り込んだ。



その晩、敏正さんは帰ってこなかった。

結婚してから初めてのことで、しかも吉原の遊女のもとにいるとわかっているので、胸が痛くてたまらない。

もしや菊乃さんは、敏正さんと一緒になりたくて足抜けしようとしたの?

不安が募り、気を抜くと涙が勝手にこぼれている。


「郁子さま」


いつの間にか東の空が明らみ、春江さんが廊下から私を呼んだ。


「はい」
「体調はいかがですか?」
「まだ少しだるいの。朝食はいいわ」


食欲などまったくない。


「お医者さまをお呼びしたほうが……」

「あぁっ、それには及びません。慣れない仕事で疲れが一気に出ただけですから。今日はお休みなのでゆっくりします」

「承知しました。……敏正さまはお戻りではないんですね」

当然の質問に一瞬言葉が詰まる。


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