大正蜜恋政略結婚【元号旦那様シリーズ大正編】
私は心の中で反発しながら、二階に上がっていく彼のあとを追い、震える手で〝とんび〟と言われる外套を準備する。


どうしたら、私だけの夫でいてくれますか?

何度も口から出そうになる言葉を呑み込む。


「ネクタイを汚してしまって。替えに帰ってきたんだ」


彼がネクタイをスルッと外したのを見て、私はとっさに自室に走った。

そして、箪笥の奥に隠してあったネクタイを手にして彼のもとに戻る。
吉原の件があり、すっかり忘れていたのだ。


「敏正さん」
「ん?」


別のネクタイを結ぼうとしている彼に、濃紺のネクタイを差し出した。


「これをしていってはいただけませんか?」


妻としての意地だった。
せめて、ネクタイだけでもそばに置いてほしいと。


「これ、どうしたんだ?」


「初めてのお給料で購入してきたんです」と話しつつ、目頭が熱くなり顔を伏せた。


「俺のために? うれしいよ。ありがとう、郁子」

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