大正蜜恋政略結婚【元号旦那様シリーズ大正編】
ふたりの苦しみが乗り移ったかのように胸が痛む。


「今日は、ふたりにとって最初で最後の夜……いや、最初の夜になる」


〝最後〟をはずした意図が私にはわからなかったが、ようやく会えるふたりが同時に別れを告げなければならないと思うと、涙があふれそうになる。

敏正さんが大門前で私を止めてくれなければ、そうした苦しみを味わっていたかもしれないからだ。


顔をしかめると、敏正さんがそっと手を握ってくれた。


「郁子。人の人生は様々だ。俺はあの日、郁子に出会えて幸せになれた。郁子もそうだとうれしい」

「もちろんです」


幸せになれたのは私のほうだ。
あの日、彼に拾われて人生の行き先が大きく動いた。


「そうか。菊乃の人生は波乱万丈。しかし運命を変えられるのは俺ではない。菊乃は菊乃自身で、道を切り開いていくだろう。彼女は強い女だ。不幸になると決まったわけではない」


彼女の想い人が身請けできれば最高だ。
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