大正蜜恋政略結婚【元号旦那様シリーズ大正編】
菊乃さんから少し怒ったような視線を送られて緊張したものの、たしかに自分は場違いなのかもしれないと思い顔を伏せた。

想い人と結ばれず、好きでもない男に身請けされる彼女は、幸せそうな夫婦など見たくもないだろう。


「郁子は、大門の前で拾ったのだ」


敏正さんが伝えると、菊乃さんの目が大きく開く。


「大門、の?」

「そうだ。父上が作られた借金のせいで、女衒に売られるところだった」

「それは……なんと運がいい話でありんしょう」

「たしかに、あの日俺が接待に赴いていなければ、出会えなかっただろうな」


敏正さんはこんな話をしてなにが言いたいのだろう。

菊乃さんには酷ではないのかと内心はらはらしながら黙っていた。


「菊乃。人生、どこでなにがあるか誰にもわからない。しかし、死んではなにも起こらない」


そうか。足抜けすれば折檻で命を落とす事例もあると聞いた。
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