大正蜜恋政略結婚【元号旦那様シリーズ大正編】
敏正さんは、命を大切にせよと伝えたいのだ。


「されど、どこも地獄でありんす」


苦しげに吐き出す菊乃さんを見て、私の顔もゆがむ。
隣の敏正さんも、小さく溜息をつき黙り込んだ。


「私、ここで必死に働けば、年季が明ける前に出られるとばかり思っていました。吉原がどれだけ厳しいところかも知らず、浅はかでした」


私が突然口を開いたからか、菊乃さんが驚いている。


「それは……わちきも同じでありんす。好かねえことを我慢すれば、たくさん稼いで田舎に帰れるとばかり思っていんした」


唇を噛みしめる彼女は、おそらく想い人を頭に思い浮かべている。
そう感じた。


「身請けがうらやましいと言う女郎もいんす。でもわちきは……一生あの男に縛られて生きていくくらいなら、ここで死にとうござりんした」


眉をひそめる菊乃さんだったが、涙はこぼさない。
それが彼女の意地のような気がして胸を打たれた。


< 228 / 338 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop