大正蜜恋政略結婚【元号旦那様シリーズ大正編】
「敏正さまはかなり頑固な方ですから、おあきらめになったほうがよろしいですよ」
敏正さんをチラリと見た春江さんは付け足した。
「私……」
「それとも、俺の言いつけなど聞けないと?」
挑発的な発言をする敏正さんだったが、その声色は優しい。
私が帰れないように仕向けているのだ。
「とんでもないです」
「それなら決まりだ。郁子。そんなに働くのが好きなら、俺の浴衣を用意してくれ。風呂に入るぞ」
「承知しました」
私が答えると、春江さんも目を細めて微笑んでくれた。
彼女はまるで母のような温かさを持った人だった。
それから、津田家での生活が始まり十日ほど過ぎた。
朝は五時半に起床してかまどに火をつける。
近所に住んでいて、通いで女中をしている春江さんの負担を少しでも減らしたいと申し出たのだ。