五年越しの、君にキス。
「大丈夫。美藤ホールディングスの代表の息子だからって言っても、俺は三男だし。親だって、俺のことは兄貴たち二人になんかあったときの保険くらいにしか思ってない。俺が誰を結婚相手に選ぼうが、別に咎められないよ」
笑いながら、伊祥が五年前と同じようなことを言う。
「それに家柄のことを言うなら、梨良だっていちおう、ベリーヒルズ・モール内に店舗が持てるくらいの、有名老舗茶屋の娘だろ」
「いちおう」と、おそらくわざとそう付け加えた伊祥の言葉が軽く胸に痞えた。
伊祥の言葉どおり、お世話になっている柳屋茶園は現在の私の実家だが、生家ではない。
実の両親は、ふたりで結婚十年目の記念旅行に出かけた帰り道、高速道路での事故に巻き込まれて亡くなっている。
私が小学生のときだった。
突然ひとりぼっちになってしまった私を引き取ってくれたのは、実母の兄であり、老舗茶屋の現当主である辰徳さんで。
奥さんの早苗さんと共に、私を実子と分け隔てなく、本当の娘のように可愛がって育ててくれた。