五年越しの、君にキス。

両親の事故は、当分ひどく落ち込むくらいに悲しかった。

けれど、両親に負けないくらいに充分な愛情を注いで、私を大学にまで行かせてくれた辰徳さんと早苗さんにはとても感謝している。

辰徳さんのあとに柳屋茶園を継ぐのは、ふたりの長男であり、私の四つ下の従姉弟の辰臣(たつおみ)なのだけれど。

育ててくれた辰徳さんと早苗さんへのせめてもの恩返しがしたかった私は、大学で経営を勉強した。

そうして卒業後は、柳屋茶園のスタッフとして働いている。

ここ一年の私の勤務地は、早苗さんが担当するベリーヒルズ店。

普段は店舗の裏側で事務作業をしたり、販売を手伝っていることが多く、業務時間内に店の外に出ることはほとんどない。


それが──── たまたま、得意先である屋上日本庭園の団子屋さんにご挨拶に出向いたあの日。

目の前の男、美藤(みとう) 伊祥(いさき)につかまった。五年ぶりの再会だった。


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