五年越しの、君にキス。

彼の態度が気になって少し強めに問い詰めたら、伊祥が戻ってこないか気にしながら話をしてくれた。


「伊祥って、美藤ホールディングスの息子だろ?だから、高校のときから一応将来の婚約者みたいな子が決められてるらしいんだよね。伊祥もいずれは企業グループに利益のある結婚をしなきゃいけないってわかってるから、高校のときはそれを理解してくれる子の告白だけオッケーしてたんだよ」

私が伊祥が美藤ホールディングスの御曹司であることを知ったのは、彼と付き合い出して数ヶ月経ってからだった。

私と伊祥が付き合い出したことを学内の噂で知った友達に「大丈夫なの?」とひどく心配され、そのときに初めてその事実を知ったのだ。

でも、私には友達が心配する理由があまりよくわかっていなかった。

伊祥と付き合い出したことがキャンパス内に広く知れ渡ると、話したこともない綺麗な女の子たちから嫌味を言われたりやっかみを買うようなことが増えた。

けれど、それは彼の立場だけでなくて、人目を惹く彼の見た目の良さに起因しているものだと思っていた。

大企業の御曹司だとはいえ、伊祥の私に対する態度は付き合う前と全然変わらなかったし、彼にその立場をひけらかされたことだってない。

ましてや、婚約者がいるなんて話を彼の口から聞かされたことなんて一度もなかった。


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