五年越しの、君にキス。
私が伊祥と知り合ったのは、大学生の頃。彼は、私と同じ学部に所属する同級生だった。
大学入学当初の私は、伊祥が大企業の御曹司であることを全く知らなかった。
けれど、色素の薄いライトブラウンの瞳と、栗色の髪、肌色が白くて中性的な印象すら受ける綺麗な顔立ちをした伊祥は、キャンパス内で明らかに目立っていて。入学当初から、その存在だけは知っていた。
綺麗な見た目からはギャップのある、サバサバとした気さくな性格が好印象を与えるのか、伊祥の周辺はだいたいいつも賑やかだった。
当然女の子にも人気があったし、いろいろなサークルからしょっちゅう勧誘も受けていた。
大学に入った当初は、そこに立っているだけで周りに人が集まってくる伊祥と私が関わることなどないと思っていたのに……
大学二回生の終わりから卒業までの間、彼が付き合ったのは私だった。
だけど卒業と同時に別れて、それからもう五年も会っていない。
卒業とともに、学生時代の伊祥との思い出は全て消したつもりだったし、伊祥のほうもそうしているものだと思っていた。
それなのに、あの日の再会をきっかけに、お見合い話を持ちかけてきた伊祥はどうやらかなり本気のようで。
そのことに、私はとても困惑している。